はじめに:派遣業界に迫る2026年の大きな転換点
2026年は、派遣会社の経営者にとって労務管理の大きな転換点となります。労働安全衛生法および労働施策総合推進法の改正により、ストレスチェックの全事業場義務化(2026年1月1日施行)とカスタマーハラスメント対策の義務化(2026年10月1日施行)という2つの重要な法改正が段階的に実施されます。
特に派遣業界においては、派遣スタッフと正社員の両方に対応する必要があり、複数の派遣先での就労環境にも配慮しなければなりません。本記事では、派遣会社経営者が今から準備すべき具体的な対応策を、社会保険労務士の視点から徹底解説します。
2026年法改正の全体像:派遣会社が知っておくべき2つの義務化
1. ストレスチェック制度の全事業場義務化(2026年1月1日施行)
これまで従業員50人以上の事業場のみに義務付けられていたストレスチェック制度が、従業員数に関わらず全事業場で完全義務化されます。派遣会社にとって重要なのは、派遣スタッフも含めた人数カウントとなる点です。
義務化される内容:
- 年1回のストレスチェック実施
- 高ストレス者への医師による面接指導
- 集団分析および職場環境改善(努力義務)
- 労働基準監督署への実施報告
派遣会社では、派遣先に常駐するスタッフも対象となるため、実施方法や結果のフィードバック体制の構築が課題となります。
2. カスタマーハラスメント対策の義務化(2026年10月1日施行)
労働施策総合推進法の改正により、顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント、略称:カスハラ)に対する防止措置が、全企業の義務として法制化されます。
義務化される内容:
- 相談体制の整備(窓口設置など)
- 被害者への適切な配慮措置
- マニュアル策定や研修の実施
- 就業規則等への方針明記
派遣業界では、派遣先での顧客対応業務に従事するスタッフも多く、カスハラリスクは特に高いといえます。派遣先企業との連携体制の構築も不可欠です。
派遣会社が法改正に対応しない場合の深刻なリスク
法的リスク:行政処分と罰則
**是正勧告・行政指導:**労働基準監督署の調査重点項目となり、未対応の場合は是正勧告を受けます。
**企業名公表:**悪質な違反とみなされた場合、厚生労働省により企業名が公表される可能性があります。
**報告義務違反:**ストレスチェック実施報告書の未提出は、50万円以下の罰金対象となります。
経営リスク:派遣業界特有の深刻な影響
**安全配慮義務違反による損害賠償:**派遣スタッフがメンタルヘルス不調やハラスメント被害で休職・退職した場合、「法定義務を果たしていなかった」として高額な損害賠償を請求されるリスクがあります。
**人材確保の困難化:**派遣業界は慢性的な人手不足に悩まされています。「スタッフの健康や安全を守らない派遣会社」という評判が立てば、スタッフ登録数の減少や、優秀な正社員の離職を招きます。
**派遣先からの信頼低下:**派遣先企業も安全配慮義務を問われる時代です。法令遵守体制が整っていない派遣会社は、派遣先から敬遠され、契約打ち切りのリスクも高まります。
**ブランド毀損:**SNS等で「カスハラから派遣スタッフを守らない会社」といった情報が拡散されれば、企業イメージは大きく傷つきます。
派遣会社が今すぐ取り組むべき対応事項チェックリスト
【重要度★★★】就業規則の改訂
派遣会社では、正社員用と派遣スタッフ用で就業規則が分かれている場合も多いため、両方の改訂が必要です。
必須の改訂項目:
- メンタルヘルス対策条項の追加:ストレスチェック実施の明記
- 「ストレスチェック実施規程」の新規作成:実施方法、結果の取扱い、面接指導の流れなどを詳細に規定
- 「カスタマーハラスメント防止規程」の新設:カスハラの定義、具体例、対応手順を明確化
- ハラスメント防止規定の見直し:定義の拡大、相談窓口の明記
- 懲戒規定の明確化:ハラスメント行為者への厳正な処分基準
- 休職・復職規定の見直し:メンタル不調者への対応フロー整備
【重要度★★★】社内体制の整備
ストレスチェック関連:
- ストレスチェック実施者(医師、保健師等)の選定・契約
- 実施事務従事者の指名と教育
- 高ストレス者への医師面接指導ルートの確保(産業医契約の見直し等)
- 派遣スタッフ向けのWeb実施システムの導入検討
ハラスメント対策関連:
- ハラスメント相談窓口の設置(社内担当者または外部委託)
- カスハラ対応マニュアルの作成(対応基準、記録方法、派遣先との連携フロー)
- 派遣先企業との情報共有体制の構築
【重要度★★☆】従業員への周知・教育
必須の取り組み:
- 改訂就業規則の従業員代表意見聴取・届出・周知
- 管理職向け:ハラスメント防止・ラインケア研修の実施
- 営業担当向け:派遣先との連携方法、カスハラ事案の初動対応研修
- 派遣スタッフ向け:セルフケア研修・ハラスメント防止研修の実施
- 相談窓口の連絡先・利用方法の周知徹底
派遣会社特有の対応ポイントと実務上の注意点
ストレスチェック実施における派遣業界の課題
課題1:派遣スタッフの実施率向上
派遣先に常駐しているスタッフへの実施通知や回収が困難です。Web実施システムの導入や、スマートフォンでの受検環境の整備が有効です。
課題2:派遣先環境の把握
ストレスチェックで高ストレス判定が出た場合、派遣先の職場環境が原因となっているケースもあります。派遣先との定期的な情報交換や、営業担当者による現場訪問の頻度を上げる必要があります。
課題3:医師面接指導の実施
派遣スタッフが全国各地に分散している場合、オンライン面接指導の活用も検討しましょう。
カスハラ対策における派遣業界の課題
課題1:派遣先でのカスハラ対応
派遣スタッフが派遣先の顧客からカスハラを受けた場合、派遣元・派遣先双方に対応義務があります。事前に派遣先企業と「カスハラ発生時の連絡フロー」「対応責任の分担」を契約書に明記しておくことが重要です。
課題2:カスハラの記録と共有
カスハラ事案が発生した際は、詳細な記録を残し、派遣元・派遣先で情報共有する体制を構築します。再発防止策の検討にも役立ちます。
課題3:マニュアルの実効性
カスハラ対応マニュアルは作成するだけでは不十分です。ロールプレイング研修を実施し、実際に使える実務的なマニュアルにブラッシュアップしましょう。
2026年10月完全対応に向けた推奨スケジュール
法改正直前は社会保険労務士事務所も混雑が予想されます。余裕を持った計画的な対応が成功の鍵です。
【2026年3月】現状分析・課題抽出
- 既存就業規則のリーガルチェック
- 現在の労務管理体制の棚卸し
- 派遣スタッフ数、派遣先数の確認
【2026年4月~5月】規程案の作成・検討
- 改訂案の作成
- 経営陣との打ち合わせ
- 派遣先企業との連携体制の協議開始
【2026年6月】従業員説明会・意見聴取
- 従業員代表の選出
- 説明会の実施(正社員・派遣スタッフ向け)
- 意見書の作成
【2026年7月】労働基準監督署への届出
- 就業規則変更届の提出
- 必要書類の整備
【2026年8月~9月】社内体制整備・運用開始
- ストレスチェック準備(システム導入、実施者契約)
- 研修実施(管理職、営業担当、派遣スタッフ)
- 相談窓口の周知徹底
【2026年10月】法改正完全対応・運用定着
- カスハラ対策義務化スタート
- PDCAサイクルによる継続的改善
社会保険労務士に依頼するメリット
専門家サポートで得られる具体的な価値
1. 最新法令への正確な対応
労働法令は頻繁に改正されます。専門家のサポートにより、最新の法改正に完全対応した就業規則を整備できます。
2. 労働基準監督署対応の安心感
届出書類の作成から提出まで、すべて代行します。不備による差し戻しのリスクもありません。
3. 外部ハラスメント相談窓口の活用
社内に相談窓口を設置しにくい場合、社労士事務所が「外部ハラスメント相談窓口」として機能することも可能です。従業員が安心して相談できる体制を構築し、リスク情報の早期把握を支援します。
4. 実務的な研修の提供
規程を作るだけではリスクは回避できません。管理職向け、営業担当向け、派遣スタッフ向けに、法改正のポイントやハラスメント防止に関する実務的な研修を実施します。
5. 継続的なフォローアップ
法改正後も、運用上の疑問点や個別事案への対応についてアドバイスを受けられます。
まとめ:派遣会社の未来を守るための今すぐの行動を
2026年の法改正は、単なる「ルールの変更」ではなく、「働く人の安全と健康を守る」という企業の社会的責任がより強く求められるようになったことを意味します。
派遣業界は、人材こそが最大の資産です。派遣スタッフが安心して働ける環境を整備することは、優秀な人材の確保、派遣先からの信頼獲得、そして企業の持続的成長に直結します。
今、行動を起こすことで得られるメリット:
- 法令遵守による行政リスクの回避
- スタッフの定着率向上と採用力強化
- 派遣先企業からの信頼獲得と取引拡大
- 企業ブランド価値の向上
- 安全配慮義務違反による訴訟リスクの低減
「ストレスチェックの全事業場義務化」と「カスハラ対策の義務化」は、現場の運用負担も大きくなるため、早期の準備が不可欠です。
まずは、現状の就業規則の診断から始めてみませんか?専門家のサポートを受けながら、従業員の皆様が安心して働ける職場づくりを実現しましょう。
2026年の法改正を、派遣会社の競争力強化のチャンスに変えていきましょう。

