【2026年最新】派遣料金の適正化が進む!派遣会社が知っておくべき価格交渉の新指針と実務対応

【2026年最新】派遣料金の適正化が進む!派遣会社が知っておくべき価格交渉の新指針と実務対応

はじめに:派遣業界を取り巻く環境変化と価格交渉の重要性

2026年1月、人材派遣業界に極めて重要な動きがありました。日本人材派遣協会が派遣先企業に対して「派遣料金の価格交渉に向けた協議」を正式に依頼する文書を発出したのです。これは、派遣業界にとって歴史的な転換点となる出来事と言えるでしょう。

この背景には、内閣官房および公正取引委員会が連名で改正した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」があり、厚生労働省からも周知依頼がなされました。つまり、政府が本格的に派遣料金の適正化に乗り出したということです。

派遣会社の経営者や人事担当者の皆様にとって、派遣料金の適正化は長年の課題であったことでしょう。物価上昇、最低賃金の引き上げ、社会保険料の増加など、コストは年々増加しているにもかかわらず、派遣料金はなかなか上げられない——。多くの派遣会社がこのジレンマに直面してきました。

派遣先企業との力関係や、「料金を上げたら契約を切られるのでは」「他社に乗り換えられるのでは」という不安から、正当な価格交渉に踏み切れなかったという声も多く聞かれます。結果として、派遣会社の利益率は圧迫され、派遣労働者への待遇改善も思うように進まないという悪循環に陥っていたケースも少なくありません。

しかし、今回の指針改正は、そうした派遣会社の皆様に「正当な価格交渉を行うための法的後押し」を与えるものです。もはや、遠慮する必要はありません。派遣料金の適正化を求めることは、法的に正当な権利であり、むしろ派遣労働者の待遇を守るための責任でもあるのです。

本記事では、派遣特化型社会保険労務士として数多くの派遣会社をサポートしてきた経験から、今回の動きの意義と、派遣会社が取るべき実務対応について、具体的かつ実践的に解説します。この記事が、皆様の価格交渉の一助となれば幸いです。


1. 政府指針改正の背景:「物価上昇を上回る賃金上昇」実現への取り組み

政府の賃金上昇政策と派遣業界の役割

日本政府は現在、「物価上昇を上回る賃金上昇」の実現を重要政策課題として掲げています。これは、長引くデフレからの脱却と、持続的な経済成長を目指すための取り組みであり、岸田政権以降一貫して推進されてきた政策の柱です。

2024年から2026年にかけて、春闘では連続して高水準の賃上げが実現されました。大企業だけでなく、中小企業においても賃上げの動きが広がっています。しかし、問題は、こうした賃上げの動きが、派遣労働者には十分に行き渡っていないという現実です。

派遣労働者は、日本の労働市場において約140万人を占める重要な労働力です。製造業、物流、IT、介護、事務など、あらゆる産業分野で派遣労働者が活躍しています。この派遣労働者の賃金が上がらなければ、日本全体の賃金上昇は実現できません。

しかし、賃金上昇を実現するためには、企業が労働者に支払う賃金の原資を確保する必要があります。特に人材派遣業界においては、派遣料金が適正に設定されなければ、派遣労働者への賃金引き上げは構造的に困難です。

派遣会社は、派遣先企業から受け取る派遣料金の中から、派遣労働者の賃金、社会保険料、雇用保険料、労災保険料、有給休暇の費用、教育研修費、管理コストなどを賄っています。派遣料金が据え置かれたまま賃金だけを上げれば、派遣会社の経営は成り立たなくなります。

政府も、この構造的な問題を理解しています。だからこそ、今回の指針改正では、派遣業界を含むあらゆる業界において、労務費の適切な転嫁を促進することが明確に打ち出されたのです。

「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」改正の意義

2026年1月に改正された「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」は、まさにこの問題に正面から対応するためのものです。この指針は、内閣官房と公正取引委員会が連名で策定しており、極めて強い法的拘束力を持つものです。

この指針では、以下のポイントが明確化されています:

1. 労務費(人件費)の上昇を適切に価格に転嫁することの重要性

労務費が上昇しているにもかかわらず、それを価格に反映させないことは、持続可能なビジネスモデルではありません。指針では、労務費の上昇を適切に価格に転嫁することが、健全な商取引の前提であると明記されています。

2. 発注者(派遣先企業)と受注者(派遣会社)が対等な立場で価格交渉を行うこと

従来、派遣会社は派遣先企業に対して立場が弱く、一方的に不利な条件を受け入れざるを得ないケースが多々ありました。しかし、指針では、両者は対等な立場で交渉すべきであると明記されています。

3. 価格交渉を拒否したり、一方的に不利な条件を押し付けることは、独占禁止法上問題となる可能性があること

これは極めて重要なポイントです。派遣先企業が、派遣会社からの正当な価格交渉の申し入れを拒否したり、「他社に切り替える」などと脅したりする行為は、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に該当する可能性があります。

つまり、派遣会社が派遣料金の適正化を求めることは、法的に正当な行為であり、派遣先企業もそれに誠実に応じる責任があるということです。これは、派遣会社にとって極めて大きな追い風となります。

指針改正が派遣会社に与える影響

この指針改正により、派遣会社は以下のような変化を期待できます:

  • 価格交渉の正当性の確保:「料金を上げたいと言うのは気が引ける」という心理的障壁が取り除かれます
  • 派遣先企業の理解促進:政府の方針として打ち出されることで、派遣先企業の理解が得やすくなります
  • 業界全体の底上げ:個社の努力だけでなく、業界全体として料金水準が適正化されます
  • 派遣労働者の待遇改善:原資が確保されることで、実質的な賃上げが可能になります

今回の指針改正は、派遣会社にとって、長年の課題を解決する絶好の機会なのです。


2. 日本人材派遣協会の取り組み:派遣先企業への協議依頼文書の意味

業界団体としての公式な後押し

日本人材派遣協会が会長・理事会一同名で発出した「派遣労働者の公正な待遇確保のために ~派遣料金の価格交渉に向けた協議のお願い~」は、個々の派遣会社が単独で交渉するのではなく、業界全体として派遣料金の適正化に取り組む姿勢を明確に示すものです。

この依頼文書の存在は、派遣会社にとって非常に重要な意味を持ちます。なぜなら、派遣会社が派遣先企業に対して「日本人材派遣協会からも、こういった依頼が出ています」と説明することで、個社の都合ではなく、業界全体の動きであることを理解してもらいやすくなるからです。

これにより、派遣会社は「うちだけが値上げを要求しているわけではない」という安心感を持って、派遣先企業と交渉に臨むことができます。また、派遣先企業としても、「業界全体の動きなら仕方ない」と受け入れやすくなる効果があります。

依頼文書の具体的内容と活用方法

日本人材派遣協会の依頼文書には、以下のような内容が含まれています:

  • 政府の賃金上昇政策と派遣業界の役割
  • 労務費の適切な転嫁の重要性
  • 派遣労働者の待遇改善のための派遣料金見直しの必要性
  • 派遣先企業への協力のお願い

この依頼文書は、日本人材派遣協会のウェブサイトからダウンロードできます。派遣会社の皆様は、価格交渉の際に、この文書を派遣先企業に提示することで、交渉の正当性を示すことができます。

具体的な活用方法としては:

1. 交渉の冒頭で提示する
「今回の協議のお願いは、私どもの独自の判断だけでなく、業界団体である日本人材派遣協会からも正式に依頼が出ております」と説明し、文書を提示します。

2. 資料として事前送付する
面談前に、依頼文書を含む資料一式を送付しておくことで、派遣先企業にも事前に理解してもらう時間を確保できます。

3. 社内での承認取得に活用してもらう
派遣先企業の担当者が、社内で料金改定の承認を取る際に、この文書を根拠資料として使ってもらうことができます。

厚生労働省リーフレットの活用方法

依頼文書と併せて、厚生労働省が作成したリーフレット「派遣労働者の公正な待遇確保のため、派遣元・派遣先の連携・協力をお願いします」も非常に有用です。

このリーフレットには、派遣法および同指針を踏まえた、派遣先企業に求められる役割や考え方が整理されています。具体的には:

1. 派遣労働者の待遇に関する情報提供義務
派遣先企業は、自社の同種の労働者の待遇に関する情報を派遣会社に提供する義務があります。これは、同一労働同一賃金の実現のために不可欠な情報です。

2. 派遣料金と派遣労働者の賃金のバランス
派遣料金の中から、派遣労働者の賃金、社会保険料、その他の経費が賄われていることを、派遣先企業に理解してもらう必要があります。

3. 派遣料金の適正化に向けた協議の重要性
派遣労働者の待遇を改善するためには、派遣料金の適正化が不可欠であることが明記されています。

これらの内容を、派遣先企業への説明資料として使うことで、客観的かつ説得力のある交渉が可能になります。特に、厚生労働省という公的機関が作成した資料であることは、大きな説得力を持ちます。

業界全体での連携の重要性

今回の日本人材派遣協会の取り組みは、業界全体で派遣料金の適正化を進めようという明確な意思表示です。これまで、個々の派遣会社が孤立して交渉し、時には不利な条件を受け入れざるを得なかったケースもありました。

しかし、業界団体が公式に動き、政府の指針も整備された今、状況は大きく変わりました。派遣会社の皆様には、業界団体と連携し、必要に応じて行政の支援も受けながら、組織的に取り組むことをお勧めします。

また、同業他社との情報交換(独占禁止法に抵触しない範囲で)も有効です。「どのように交渉したか」「派遣先企業の反応はどうだったか」といった情報を共有することで、より効果的な交渉戦略を立てることができます。


3. 派遣料金適正化の必要性:派遣労働者と派遣会社の双方にとってのメリット

派遣料金の適正化は、単に派遣会社の利益を増やすためのものではありません。派遣労働者、派遣会社、そして実は派遣先企業にとっても、三方良しの取り組みなのです。

派遣労働者にとってのメリット

派遣料金が適正化されることで、まず直接的に恩恵を受けるのは派遣労働者です。

1. 賃金の向上
派遣料金の増額分は、派遣労働者の賃金引き上げに充てられます。これにより、物価上昇に対応した実質的な生活水準の維持・向上が可能になります。2024年から2026年にかけて、消費者物価指数は大きく上昇しましたが、派遣労働者の賃金が据え置かれていれば、実質的には賃金が下がっているのと同じです。派遣料金の適正化により、この問題を解決できます。

2. 待遇の改善
賃金だけでなく、福利厚生の充実や、キャリアアップ支援の強化にも資金を投入できるようになります。例えば、資格取得支援制度の充実、健康診断の充実、慶弔見舞金の増額、退職金制度の導入など、様々な待遇改善が可能になります。

3. 雇用の安定
派遣会社の経営基盤が安定することで、派遣労働者の雇用も安定します。経営が厳しい派遣会社では、派遣先企業との契約が終了した際に、次の仕事を紹介できないケースもあります。しかし、経営が安定していれば、多様な派遣先との取引を維持でき、派遣労働者に継続的に仕事を提供できます。

4. スキルアップの機会
教育研修に投資できるようになることで、派遣労働者のスキルアップの機会が増えます。これは、派遣労働者の長期的なキャリア形成にとって非常に重要です。

5. モチベーションの向上
適正な賃金と待遇を受けることで、派遣労働者のモチベーションが向上し、仕事の質も高まります。これは、派遣先企業にとってもメリットとなります。

派遣会社にとってのメリット

派遣会社にとっても、派遣料金の適正化は重要な経営課題です。

1. 経営の健全化
適正な利益を確保することで、企業としての持続可能性が高まります。近年、派遣会社の倒産件数は増加傾向にあります。その多くは、派遣料金が適正に設定されず、利益率が低迷したことが原因です。派遣料金の適正化により、こうしたリスクを低減できます。

2. 人材確保力の強化
高い賃金や充実した待遇を提供できることで、優秀な派遣スタッフを確保しやすくなります。人材不足が深刻化する中、優秀な人材を確保できるかどうかは、派遣会社の競争力を左右します。

3. サービス品質の向上
教育研修や、派遣スタッフのフォロー体制に投資できるようになり、サービス品質が向上します。これにより、派遣先企業からの信頼も高まり、長期的な取引関係を構築できます。

4. 営業力の強化
営業担当者の増員や、営業ツールへの投資が可能になり、新規顧客の開拓や既存顧客との関係強化ができます。

5. コンプライアンス体制の強化
労務管理の専門家を雇用したり、システム投資を行ったりすることで、コンプライアンス体制を強化できます。これにより、労働法令違反のリスクを低減できます。

6. 社員の処遇改善
派遣会社の正社員(営業担当者や管理スタッフ)の処遇も改善でき、優秀な人材を確保・定着させることができます。

派遣先企業にとってのメリット

実は、派遣料金の適正化は、派遣先企業にとってもメリットがあります。これは、価格交渉の際に強調すべき重要なポイントです。

1. 優秀な人材の安定供給
派遣会社が優秀な人材を確保・育成できることで、派遣先企業は質の高い人材を安定的に受け入れられます。安い派遣料金で質の低いサービスを受けるよりも、適正な料金で質の高いサービスを受ける方が、長期的には派遣先企業にとって有利です。

2. 人材の定着率向上
派遣労働者の待遇が良ければ、離職率が低下し、同じ人材が長期間勤務してくれます。これにより、派遣先企業は、何度も新しい人材を受け入れて教育する手間を省くことができます。

3. コンプライアンスの強化
派遣労働者の待遇が適正に確保されることで、派遣法違反などのリスクが低減します。派遣先企業にも、派遣労働者の待遇に関する一定の責任があります。派遣会社が法令を遵守できる環境を整えることは、派遣先企業のリスク管理にもつながります。

4. 企業イメージの向上
派遣労働者を大切にする企業として、社会的評価が高まります。近年、ESG経営が重視される中、労働者の待遇に配慮する企業は、投資家や消費者からも高く評価されます。

5. 生産性の向上
モチベーションの高い派遣労働者が働くことで、生産性が向上します。これは、派遣先企業の業績にも直結します。

6. トラブルの減少
待遇に不満を持つ派遣労働者は、遅刻や欠勤が多くなったり、仕事の質が低下したりする傾向があります。適正な待遇を提供することで、こうしたトラブルを減少させることができます。

このように、派遣料金の適正化は、派遣労働者、派遣会社、派遣先企業の三者すべてにメリットがあるWin-Win-Winの取り組みなのです。


4. 派遣料金の価格交渉:実務で押さえるべきポイント

それでは、具体的にどのように価格交渉を進めればよいのでしょうか。実務で押さえるべきポイントを詳しく解説します。

交渉のタイミング

派遣料金の改定交渉は、タイミングが非常に重要です。適切なタイミングで交渉することで、成功率が大きく高まります。

効果的なタイミング:

1. 派遣契約の更新時
派遣契約は通常、3ヶ月または6ヶ月ごとに更新されます。この更新のタイミングは、料金改定を提案する最適な機会です。契約期間の途中で料金改定を求めるよりも、更新時の方が派遣先企業も受け入れやすいでしょう。

2. 年度の切り替え時(4月)
多くの企業は4月を年度初めとしています。予算編成のタイミングでもあるため、料金改定を織り込んでもらいやすい時期です。2026年4月に向けて、2026年1月から2月にかけて交渉を開始するのが理想的です。

3. 最低賃金改定後
毎年10月には最低賃金が改定されます。最低賃金の上昇に伴い、派遣労働者の賃金も引き上げる必要があるため、このタイミングでの料金改定は理解を得やすいでしょう。

4. 派遣法や関連指針の改正後
今回のような政府指針の改正があった直後は、交渉の絶好のタイミングです。「法令や指針が変わったので、対応が必要です」という説明ができます。

5. 新規契約時
新しい派遣先企業と契約する際には、最初から適正な料金で契約することが重要です。一度低い料金で契約してしまうと、後から上げるのは困難になります。

避けるべきタイミング:

  • 派遣先企業の業績が悪化している時期
  • 派遣先企業の繁忙期(余裕がない時期)
  • 派遣労働者のトラブルが発生した直後
  • 契約期間の途中(やむを得ない場合を除く)

交渉に必要な資料の準備

交渉を成功させるためには、客観的なデータや資料の準備が不可欠です。感情論ではなく、データに基づいた論理的な説明が必要です。

必須資料:

1. 日本人材派遣協会の依頼文書
前述の通り、業界団体からの公式な依頼文書は、交渉の正当性を示す強力な根拠となります。

2. 厚生労働省のリーフレット
政府の方針を示す公的資料として、説得力があります。

3. 最低賃金の推移データ
過去数年間の最低賃金の推移を示すデータを用意します。特に、2024年から2026年にかけて、最低賃金は大幅に上昇しています。この事実を示すことで、賃金コストの増加を理解してもらいやすくなります。

4. 一般労働者の賃金水準(職業安定局長通達)
労使協定方式を採用している場合、一般労働者の賃金水準以上の賃金を支払う必要があります。この賃金水準も年々上昇していることを示すデータを用意します。

5. 自社の派遣スタッフの賃金データ
現在の派遣料金と、派遣労働者に支払っている賃金の関係を示すデータです。「派遣料金のうち、○○%が派遣労働者の賃金に充てられています」という説明ができると、理解を得やすくなります。

6. 社会保険料率の推移
社会保険料率は年々上昇しています。このコスト増加も、料金改定の根拠となります。

7. その他のコスト増加要因
通勤手当、有給休暇、教育研修費など、その他のコストも増加しています。これらを整理した資料を用意します。

8. 同業他社の派遣料金相場(可能な範囲で)
独占禁止法に抵触しない範囲で、業界の相場感を示すことも有効です。ただし、具体的な他社名や料金を明示することは避けるべきです。

補助資料:

  • 派遣労働者の定着率や満足度のデータ
  • 自社の教育研修制度や福利厚生の内容
  • 派遣先企業からの評価やフィードバック
  • 自社の強みや差別化ポイント

交渉時の説明の仕方

資料を準備したら、次は説明の仕方が重要です。同じ内容でも、伝え方次第で相手の受け止め方は大きく変わります。

× 悪い例:

「最近、経営が厳しくて利益が出ていないので、派遣料金を上げてください」
→ これでは、派遣会社の都合だけを押し付けているように聞こえます。

「他社はもっと高い料金をもらっています」
→ 他社との比較は、派遣先企業を不快にさせる可能性があります。

「料金を上げてくれないなら、派遣を引き上げます」
→ 脅迫のように聞こえ、関係が悪化します。

良い例:

「2026年1月に、政府の指針が改正され、労務費の適切な転嫁が求められるようになりました。これを受けて、日本人材派遣協会からも、派遣料金の見直しについて協議をお願いする文書が発出されています。(資料を提示)

私どもとしましても、派遣スタッフの待遇を維持・向上させ、優秀な人材を安定的に御社に供給し続けるために、派遣料金の見直しについてご協議いただけますでしょうか。

具体的には、最低賃金が過去3年間で○○円上昇しており、また一般労働者の賃金水準も上昇しています。(データを提示)これに対応するため、派遣スタッフの賃金を引き上げる必要があります。

また、社会保険料率も上昇しており、コスト全体が増加しています。(データを提示)現在の派遣料金のままでは、これらのコスト増加を吸収することが困難な状況です。

料金を適正化することで、私どもは派遣スタッフへの教育研修やフォロー体制をさらに充実させることができ、御社にとっても、より質の高いサービスを提供できるようになります。

つきましては、○月○日以降の契約分から、派遣料金を時間単価で○○円(または○○%)引き上げさせていただきたく、ご検討をお願いいたします」

説明のポイント:

  1. 政府の方針や業界の動きを先に説明する:個社の都合ではなく、社会全体の動きであることを理解してもらいます。
  2. 客観的なデータを示す:感情論ではなく、データに基づいた説明をします。
  3. 派遣先企業のメリットも伝える:料金改定が、派遣先企業にとってもプラスになることを説明します。
  4. 具体的な金額と時期を明示する:曖昧な表現ではなく、具体的に提案します。
  5. 「値上げ」ではなく「適正化」という言葉を使う:ネガティブなイメージを避けます。
  6. 感謝と協力のお願いで締めくくる:一方的な要求ではなく、協力をお願いする姿勢を示します。

交渉時の注意点

1. 一方的に通告しない
「来月から料金を上げます」という一方的な通告は避けましょう。あくまでも「協議をお願いしたい」というスタンスが重要です。

2. 感情的にならない
交渉が難航しても、感情的になることは避けましょう。冷静に、論理的に説明することが大切です。

3. 柔軟性を持つ
一度に大幅な値上げを求めるのではなく、段階的な改定や、他の条件との組み合わせなど、柔軟に対応する姿勢も必要です。

4. 長期的な関係を重視する
目先の利益だけでなく、長期的な信頼関係を重視した交渉を心がけましょう。

5. 記録を残す
交渉の内容は、必ず記録に残しましょう。後日のトラブルを避けるためにも重要です。


5. 同一労働同一賃金との関連:労使協定方式における賃金水準の確保

派遣料金の適正化は、同一労働同一賃金の実現とも密接に関連しています。

労使協定方式の基本

派遣法では、派遣労働者の待遇決定方式として「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」の2つが定められています。

派遣先均等・均衡方式は、派遣先企業の同種の労働者と均等・均衡な待遇を確保する方式です。派遣先企業ごとに待遇が変わるため、管理が複雑になります。

労使協定方式は、派遣会社が労働者代表と労使協定を締結し、一般労働者の賃金水準(職業安定局長通達)以上の賃金を支払う方式です。多くの派遣会社がこの方式を採用しています。

労使協定方式を採用する場合、以下の要件を満たす必要があります:

  1. 一般労働者の賃金水準以上の賃金を支払うこと
  2. 派遣労働者の職務内容、成果、能力、経験等を公正に評価し、賃金を決定すること
  3. 派遣労働者に対して、段階的・体系的な教育訓練を実施すること
  4. その他、厚生労働省令で定める事項

2026年度の賃金水準上昇

2026年度(令和8年度)の一般労働者の賃金水準は、2025年度と比較して上昇しています。

例えば、通勤手当は2025年度の73円から2026年度は79円へと6円の増加となっています。これは約8.2%の上昇率です。

また、基本給についても、多くの職種で数%の上昇が見られます。これは、春闘での賃上げや最低賃金の引き上げを反映したものです。

派遣会社は、この賃金水準に合わせて派遣スタッフの賃金を引き上げる必要がありますが、そのためには派遣料金の適正化が不可欠です。

派遣料金と賃金のバランス

派遣料金が据え置かれたまま賃金だけを上げると、派遣会社の利益が圧迫され、経営が成り立たなくなります。

一般的に、派遣料金の内訳は以下のようになっています:

  • 派遣労働者の賃金:60~70%
  • 社会保険料・労働保険料:15~20%
  • 有給休暇費用:2~3%
  • 管理費・営業経費:10~15%
  • 利益:3~8%

つまり、派遣料金のうち、約75~90%は派遣労働者への支払いに充てられており、派遣会社の利益はわずか3~8%程度なのです。

この状況で、賃金水準が数%上昇すれば、派遣会社の利益は簡単に吹き飛んでしまいます。だからこそ、派遣料金の適正化が必要なのです。

派遣先企業への説明方法

派遣先企業には、「派遣料金の一定割合が派遣労働者の賃金に充てられている」という仕組みを理解してもらうことが重要です。

具体的には、以下のような説明が効果的です:

「派遣料金は、大部分が派遣労働者の賃金や社会保険料に充てられています。派遣会社の利益は数%程度に過ぎません。一般労働者の賃金水準が上昇すれば、それに応じて派遣労働者の賃金も引き上げる必要があります。派遣料金を適正化することで、派遣労働者に適正な賃金を支払い、御社にも優秀な人材を安定的に供給し続けることができます」

このように、派遣料金と派遣労働者の賃金の関係を明確に説明することで、理解を得やすくなります。


6. よくある質問:派遣料金交渉に関するQ&A

派遣料金交渉を進める中で、よく出てくる質問とその回答をまとめました。

Q1. 派遣先企業から「他社はもっと安い」と言われたらどうすればいい?

A. これは交渉の場面でよく聞かれる言葉です。しかし、価格だけで比較されることは避けるべきです。

対応方法:

「確かに、価格だけを見れば、より安い派遣会社もあるかもしれません。しかし、私どもは価格だけでなく、サービスの質にもこだわっています。

具体的には、派遣スタッフへの充実した教育研修、きめ細かいフォロー体制、高い定着率などが、私どもの強みです。(具体的なデータを提示)

また、『安かろう悪かろう』では、結果的に御社にとってもマイナスになります。頻繁に人が入れ替わったり、スキル不足の人材が来たりすれば、御社の業務に支障が出るだけでなく、教育コストもかかります。

適正な料金で、質の高いサービスを提供することが、長期的には御社にとっても最もメリットがあると考えています」

このように、価格だけでなく、総合的な価値で判断してもらうよう促すことが重要です。

Q2. 交渉が難航したらどうすればいい?

A. 交渉がすぐにまとまらないケースもあります。その場合、以下の対応を検討しましょう。

対応方法:

1. 段階的な改定を提案する
一度に大幅な値上げを求めるのではなく、「まずは○月から○○円、その後○月からさらに○○円」といった段階的な改定を提案します。

2. 他の条件との組み合わせを検討する
料金改定と引き換えに、契約期間を長期化する、派遣人数を増やす、などの条件を組み合わせることも一つの方法です。

3. 時間を置く
即答を求めず、「社内でご検討いただけますか」と、時間を与えることも有効です。その間に、資料を再度送付するなどのフォローを行います。

4. 第三者の意見を活用する
日本人材派遣協会や社会保険労務士などの専門家の意見を伝えることで、客観性を持たせることができます。

5. トップ同士の交渉に切り替える
担当者レベルで難航している場合、経営者同士の交渉に切り替えることも検討します。

ただし、どうしても折り合いがつかない場合は、契約の継続を見直すことも視野に入れる必要があります。不採算の取引を続けることは、長期的には会社の存続を危うくします。

Q3. 契約書に「料金は改定しない」と書かれている場合は?

A. 契約書にそのような条項があっても、必ずしもそれが絶対ではありません。

対応方法:

契約書の条項であっても、労働法令や公正取引の観点から問題がある条項は無効となる可能性があります。

特に、今回の政府指針では、労務費の適切な転嫁が求められており、それを妨げる契約条項は、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に該当する可能性があります。

ただし、法的な判断は複雑なため、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

その上で、派遣先企業に対しては、「契約書の条項はありますが、法令や指針が変わった以上、現状に合わせた見直しが必要です。協議をお願いできますでしょうか」という形で申し入れを行います。

Q4. 新規の派遣先企業に対しては、どのように料金を設定すればいい?

A. 新規契約の場合は、最初から適正な料金を提示することが重要です。

対応方法:

新規契約の段階で安い料金を提示してしまうと、後から上げることは非常に困難になります。そのため、最初から適正な料金を提示しましょう。

「私どもの派遣料金は、派遣労働者への適正な賃金と、質の高いサービスを提供するために必要な水準に設定しています。業界の相場と比較しても適正な水準です」

と説明し、自信を持って提示します。

もし「高い」と言われても、すぐに値下げするのではなく、サービスの質や、派遣労働者の定着率、教育研修の充実度など、価格に見合った価値があることを説明します。

Q5. 派遣労働者から「賃金を上げてほしい」と言われたらどうすればいい?

A. 派遣労働者からの賃金引き上げ要求は、正当なものです。しかし、派遣料金が据え置かれたままでは対応が困難です。

対応方法:

派遣労働者に対しては、「あなたの賃金を上げたいという気持ちは理解しています。ただし、そのためには派遣先企業との料金交渉が必要です。現在、料金改定の交渉を進めていますので、実現できるよう努力します」と説明します。

そして、実際に派遣先企業と料金交渉を行い、実現させることが重要です。

また、派遣労働者の満足度を維持するために、賃金以外の待遇改善(福利厚生の充実、働きやすい環境の整備など)にも取り組むことが大切です。

Q6. 業界の相場がわからない場合はどうすればいい?

A. 派遣料金の相場は、職種や地域、派遣労働者のスキルレベルによって大きく異なります。

対応方法:

日本人材派遣協会が発表している統計データや、厚生労働省の「労働者派遣事業報告書」などを参考にすることができます。

また、同業の派遣会社との情報交換(独占禁止法に抵触しない範囲で)も有効です。

さらに、社会保険労務士などの専門家に相談することで、適正な料金水準についてアドバイスを受けることができます。


7. 今後の展望:派遣業界の持続可能性に向けて

派遣労働者の待遇改善は社会的課題

派遣労働者の待遇改善は、単に派遣業界だけの問題ではなく、日本社会全体の重要課題です。

日本では現在、約140万人の派遣労働者が働いています。この人たちの待遇が改善されなければ、日本全体の賃金上昇も実現できません。また、働き方の多様性を確保し、誰もが安心して働ける環境を整えることは、少子高齢化が進む日本において、労働力を確保するためにも不可欠です。

政府も、派遣労働者の待遇改善を重要政策として位置づけています。今回の指針改正は、その具体的な取り組みの一つです。

派遣会社の社会的責任

派遣会社には、派遣労働者の雇用主として、適正な待遇を提供する責任があります。そのためには、適正な派遣料金を確保することが不可欠です。

「料金交渉は難しい」「派遣先の機嫌を損ねたくない」という消極的な姿勢ではなく、派遣労働者の未来を守るという使命感を持って、積極的に交渉に臨むことが求められます。

派遣会社は、単なる仲介業者ではありません。派遣労働者の雇用主であり、キャリア形成を支援する存在です。その責任を果たすためにも、経営基盤を安定させ、派遣労働者に投資できる体制を整えることが重要です。

業界全体での取り組みが重要

今回の日本人材派遣協会の取り組みは、業界全体で派遣料金の適正化を進めようという明確な意思表示です。

個々の派遣会社が孤立して交渉するのではなく、業界団体と連携し、必要に応じて行政の支援も受けながら、組織的に取り組むことが成功の鍵となります。

また、派遣業界全体のイメージ向上にも取り組む必要があります。「派遣労働は不安定」「待遇が悪い」というネガティブなイメージを払拭し、「派遣労働も魅力的な働き方の一つ」という認識を広めることが大切です。

派遣業界の未来に向けて

派遣業界は、今、大きな転換点に立っています。これまでのような、低料金で競争するビジネスモデルは、もはや持続可能ではありません。

これからの派遣業界は、適正な料金を確保し、派遣労働者に投資し、質の高いサービスを提供することで、価値を高めていく必要があります。

そのためには、派遣会社一社一社が、勇気を持って価格交渉に臨み、適正な料金を確保することが不可欠です。

今回の政府指針改正と、日本人材派遣協会の取り組みは、そのための強力な後押しとなります。この機会を逃すことなく、行動を起こしましょう。


まとめ:今こそ行動を起こす時

2026年1月の政府指針改正と、日本人材派遣協会の依頼文書発出は、派遣料金の適正化を進める絶好の機会です。これは、派遣業界にとって、長年の課題を解決できる歴史的なチャンスと言えます。

派遣会社の皆様には、以下のアクションを強くお勧めします:

情報収集
日本人材派遣協会の依頼文書と厚生労働省のリーフレットを入手し、内容を十分に理解する

スケジュール策定
派遣先企業との価格交渉のスケジュールを立て、2026年4月の契約更新に向けて準備を進める

資料準備
交渉に必要な資料(賃金データ、相場情報、コスト増加の根拠など)を丁寧に準備する

社内体制の整備
営業担当者に対して、交渉のポイントや説明の仕方を研修し、全社で統一した対応ができるようにする

派遣先企業への申し入れ
まずは主要な派遣先企業に対して、協議の申し入れを行う。その際、日本人材派遣協会の依頼文書を活用する

専門家への相談
必要に応じて、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受ける

派遣労働者の待遇改善と、派遣会社の経営基盤強化の両立は可能です。そして、それは派遣先企業にとってもメリットのある、Win-Win-Winの取り組みです。

「うちは小さな会社だから」「派遣先企業との関係が悪くなるかもしれない」——そんな不安を抱く気持ちは理解できます。しかし、今行動を起こさなければ、状況は何も変わりません。それどころか、コスト増加に対応できず、経営が立ち行かなくなる可能性すらあります。

政府も、業界団体も、そして社会全体も、派遣料金の適正化を支持しています。今こそ、勇気を持って一歩を踏み出しましょう。

派遣業界の未来は、私たち一人ひとりの行動にかかっています。派遣労働者が安心して働ける環境を作り、派遣会社が持続可能な経営を実現し、派遣先企業が質の高いサービスを受けられる——そんな理想の派遣業界を、共に作り上げていきましょう。


【参考情報】

  • 日本人材派遣協会「派遣労働者の公正な待遇確保のために ~派遣料金の価格交渉に向けた協議のお願い~」
    https://www.jassa.or.jp/information/6241/
  • 厚生労働省「労働者派遣法の概要」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386.html
  • 内閣官房・公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」
  • 厚生労働省リーフレット「派遣労働者の公正な待遇確保のため、派遣元・派遣先の連携・協力をお願いします」

【この記事についてのご相談は】

派遣特化型社会保険労務士として、派遣会社の労務管理支援、派遣法改正対応のコンサルティング、派遣料金交渉のサポートなどを行っています。

「価格交渉の具体的な進め方を相談したい」
「労使協定の見直しが必要かどうか知りたい」
「派遣先企業への説明資料を作成してほしい」

など、派遣業務に関するご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。派遣労働者の待遇改善と、派遣会社の健全な経営の両立を、全力でサポートいたします。

みなとみらい人事コンサルティング
代表社会保険労務士 泉 文美