労働者派遣を行う企業や、初めて派遣労働者を受け入れる企業から頻繁に寄せられる質問が、「労働者派遣契約書にはどの項目を必ず記載しなければならないのか」という点です。
派遣契約書は、通常の商取引契約とは異なり、労働者保護の観点から記載事項が細かく法律で定められています。記載漏れや不十分な内容のまま運用すると、行政指導や是正勧告の対象になるだけでなく、派遣先・派遣元・派遣労働者の三者間でトラブルが発生しやすく、現場では大きなリスクを抱えることになります。
本記事では、労働者派遣法に基づき必ず記載すべき項目を中心に、企業が実務で押さえるべきポイントを詳細解説としてまとめます。
【結論】
労働者派遣契約書に最低限必要な項目は、労働者派遣法第26条によって法定化されています。具体的には、派遣労働者が従事する業務内容、人数、派遣期間、派遣料金、指揮命令を行う派遣先担当者、安全衛生・苦情処理に関する事項など、派遣労働者の働く環境と待遇に直結する内容が必須となります。これらの記載が欠けている場合、契約自体が法令違反となる可能性があります。
【解説】
労働者派遣契約書は単なる契約書ではなく、派遣元・派遣先の責任範囲を明確化し、派遣労働者の就業環境を適正に保つための仕組みです。ここでは法定項目を詳しく説明します。
1. **業務内容の明確化**
派遣労働者が担当する業務を具体的に記載する必要があります。例えば「事務作業」だけでは曖昧で、業務範囲を逸脱した指示につながる恐れがあります。「データ入力・電話応対・資料整理」など、詳細な記載が求められます。
2. **派遣労働者の人数および派遣期間**
「何名を」「いつからいつまで」派遣するのかを明確に記載します。派遣期間については延長・更新のルール(3年ルール等)との整合性が重要で、曖昧な期間設定は指摘対象になりやすい部分です。
3. **派遣料金の額**
派遣料金は契約の根幹となる項目です。総額として記載し、時間単価方式であれば「1時間あたり○円」といった具体的な表記が必要です。根拠のない料金設定は行政調査で説明を求められる場合があり、内部管理体制も整えておくべきです。
4. **指揮命令者の氏名または役職**
派遣労働者に直接作業指示を行う派遣先の担当者(指揮命令者)を特定します。これは責任の所在を明確にするための重要項目です。
5. **苦情処理に関する事項**
派遣労働者から苦情が寄せられた場合、どのように処理するのか、派遣元と派遣先の役割分担を明記します。窓口担当者や対応フローを記載しておくことで、トラブル発生時の混乱を防げます。
6. **安全衛生に関する事項**
派遣先が講ずべき安全衛生対策、必要な保護具の支給、作業環境の情報などを記載します。特定作業(危険・有害業務など)がある場合は特に詳細な説明が必要です。
7. **教育訓練・福利厚生の扱い**
派遣労働者が受ける教育や福利厚生措置についても記載します。派遣先の社員と同様に利用できる設備や制度については、扱いが不明確だと不公平感やトラブルにつながります。
8. **個人情報の取り扱い**
法律上必須ではないものの、実務では個人情報保護の観点から条項として設ける企業が増えています。
労働者派遣契約書は、これらの項目を網羅しつつ、実態に即した内容であることが重要です。
【よくある誤解】
労働者派遣契約書については、現場で次のような誤解が多く見られます。
1. **「業務内容は多少曖昧でも問題ない」**
実際には業務が曖昧なほど、指揮命令の範囲が不明確となり、派遣労働者に過剰な負担が発生しやすくなります。行政調査でも、業務逸脱が最も指摘されやすいポイントです。
2. **「派遣期間を書かなくても更新で調整すればよい」**
派遣期間の記載は必須であり、未記載のまま契約を締結すると法令違反となります。更新の場合も必ず書面で明確にする必要があります。
3. **「派遣料金は後で調整すればよい」**
料金の後付け変更はトラブルのもとです。契約時点で明確にしておく必要があります。
4. **「指揮命令者は現場の誰でもよい」**
特定の担当者を契約上で定めないと、責任の所在が曖昧になり、指示内容に一貫性がなくなります。
【実務での注意点】
労働者派遣契約書は、作成時だけでなくその後の運用が非常に重要です。以下の点に注意することで法令違反リスクを大幅に減らすことができます。
1. **契約書の内容と現場の実態を一致させること**
実際の業務内容が変化しているにもかかわらず契約書を更新しないケースは、違反として指摘されやすい典型例です。
2. **指揮命令者が変更された場合の速やかな記載変更**
担当者変更はよく起こるため、変更があれば即座に契約書へ反映する体制が必要です。
3. **安全衛生情報の共有不足に注意**
特に化学物質や危険作業に関わる業務では、安全衛生に関する情報共有が不十分だと重大事故につながることがあります。
4. **派遣料金の算定根拠を明確にしておく**
行政の立入調査では「料金決定の根拠」を確認されることがあり、準備不足だと説明に苦慮する場合があります。
5. **契約更新時の手続管理の徹底**
更新が多い職場では、契約満了前に更新を失念するケースが多く、無契約状態で派遣を継続するリスクが生じます。
6. **派遣労働者の苦情処理体制の整備**
苦情対応が機能していないと、労働局へ情報提供され、調査につながることがあります。日頃から担当者間の連携が重要です。
【まとめ】
労働者派遣契約書には、多くの法定項目があり、それぞれが派遣労働者の働く環境を守るために重要な意味を持っています。
契約書を単なる形式的な書類として扱うと、実態と乖離し、法令違反やトラブルのリスクが高まります。業務内容・派遣期間・指揮命令者・安全衛生・苦情処理など、最低限必要な項目を正確に記載し、運用まで含めて適切に管理することが求められます。
疑問点がある場合は、関連法令や行政のガイドラインを確認し、適切な契約運用を徹底することで、派遣元・派遣先双方が安全かつ円滑に事業を進めることができます。

