労働者派遣法は、派遣会社が事業を運営するうえで必ず押さえておくべき中心的な法律です。しかし、派遣法は内容が幅広く、しかも毎年のように改正が行われているため、「全体像を正しくつかむこと」が簡単ではありません。派遣元・派遣先・派遣スタッフという三者が関わる独特の仕組みがある以上、コンプライアンスを守るためには“実務レベルで理解すること”が不可欠です。
この記事では、社会保険労務士として派遣会社の法令対応をサポートする経験から、派遣会社が必ず守るべき基本ルールを体系的にわかりやすく整理しました。
「派遣法はなんとなく知っているけど、運用に自信がない」
「指導を受けないために、どこを見直すべきか知りたい」
そんな方にぜひ読んでいただきたい内容です。
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■ 1. 労働者派遣法の目的とは?
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労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)は、「派遣労働者の保護」と「派遣事業の適正運営」を目的とした法律です。
派遣の特徴は、
– 雇用主は派遣元
– 指揮命令を行うのは派遣先
– 実際に働くのは派遣スタッフ
という三者の関係構造にあります。この“雇用と指揮命令の分離”が一般の労働契約とは異なるため、トラブルを防ぐための詳細なルールが法令で定められています。
よくあるトラブルとしては、
– 派遣先が行うべき指揮命令を派遣元が行ってしまう
– 時間管理の責任が曖昧
– 業務範囲が派遣契約とズレてしまう
– 派遣期間が3年を超えてしまう
– 待遇説明が不足しスタッフの不満が高まる
などが挙げられます。
これらは全て、派遣法を正しく理解していれば防ぐことが可能です。
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■ 2. 派遣会社が最初に押さえるべき「許可と運営基準」
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派遣事業は許可制です。許可を取得するためには多くの基準をクリアする必要があり、取得後も継続的に運営基準を満たしていくことが求められます。
### ● 許可取得の主な基準
– **資産要件**(現金・預金が一定額以上)
– **事務所基準**(独立性や保管体制の確認)
– **専任スタッフの配置**(派遣元責任者の講習受講が必要)
– **事業運営の体制整備**
特に資産要件は見落とされがちで、決算内容によって更新時に許可が通らないケースもあります。
### ● 許可取得後に重要となる“運営基準”
許可を取ったら終わりではありません。むしろ大切なのは許可後の運営です。
主な運営基準は以下のとおりです。
– 派遣スタッフへの定期的な教育訓練
– キャリア形成支援の実施
– 労使協定の整備(労使協定方式の場合)
– 派遣契約書の適正な作成
– 就業条件明示書の発行
– 労働条件の説明義務
– 記録の保存義務
これらは毎年監査の対象になる部分で、特に記録の不備は行政指導につながりやすいため注意が必要です。
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■ 3. 派遣スタッフの教育訓練|「形だけ」では通用しない
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教育訓練は派遣法の中でも特に重要なポイントです。
よくある誤解は、
「研修計画に入っていればOK」
「メールで資料を送ったから実施したことにしている」
というものです。
実際には、
– 実施日時
– 実施内容
– 受講者
– 使用した教材
– 実施証跡(レポート・受講テスト 等)
など具体的な記録が求められます。
教育訓練が適切に行われていないと、監査で改善指導の対象となり、ひどい場合は事業停止につながる可能性もあります。
社労士として現場を見ていても、教育訓練の記録は不備が多い分野です。ぜひ優先して見直していただきたいポイントです。
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■ 4. 派遣期間の「3年ルール」|もっとも誤解されるポイント
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労働者派遣法には、「同じ組織単位」での派遣期間は原則3年までという制限があります。
この“組織単位”というのが非常に誤解されやすいポイントで、派遣先によって以下のように異なります。
– 課
– 班
– チーム
– 係
– 事業所の一部
さらに、人事異動扱いにできる範囲も会社によって異なり、判断を誤ると簡単に期間超過が起こります。
よくあるトラブルとしては、
– 派遣先が期間を管理しておらず、3年を超えていた
– 派遣元が更新時にチェックしていなかった
– 組織の定義が曖昧で誤った管理がされていた
などがあります。
3年ルールを守るためには、派遣元と派遣先の双方が「期間管理」を行うことが重要です。派遣元が派遣先任せにすると、気づいたときには法違反…というケースは本当に多いです。
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■ 5. 同一労働同一賃金|派遣会社がもっともつまずきやすい領域
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2020年の法改正で、派遣労働者にも「同一労働同一賃金」が適用されました。
派遣会社は以下のどちらかの方式を選択する必要があります。
1. **派遣先均衡・均等待遇方式**
2. **労使協定方式**
現在、多くの派遣会社が労使協定方式を採用しています。
### ● 均衡・均等待遇方式
派遣先の正社員との待遇を比較し、合理的な待遇差を説明する方式です。
比較対象の選定や資料集めが難しく、実務負担が大きい方式です。
### ● 労使協定方式
派遣元で協定を結び、賃金水準や評価基準を定める方式。
実務は安定しますが、賃金テーブルの見直しが必要になります。
どちらの方式でも共通するのは、
– スタッフに説明する義務がある
– 記録を残しておく必要がある
– 不合理な待遇差があると法違反になる
という点です。
派遣スタッフは待遇問題に敏感であるため、この領域の対応が雑だとトラブルが起きやすくなります。社労士としても、ここは特に丁寧な運用をおすすめしています。
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■ 6. 派遣契約書の整備|トラブル防止の生命線
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派遣契約書は、派遣元と派遣先の関係を明確にし、責任の範囲を決める非常に重要な文書です。
にもかかわらず、現場で最も多いトラブルの原因が「契約書の不備」です。
以下の内容は必ず契約書に明記すべき項目です。
– 業務内容
– 派遣期間
– 派遣料金
– 指揮命令権の範囲
– 労働時間
– 安全衛生上の措置
– 残業命令の扱い
業務内容が曖昧なままスタートしてしまうと、派遣先が業務範囲を広げてしまい、スタッフの負担が増えたり、契約違反になるケースもあります。
社労士と連携して契約書を整備する派遣会社も増えており、派遣元・派遣先の双方がトラブルを避けるためにも非常に重要なポイントです。
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■ 7. 派遣元と派遣先の役割分担|曖昧にすると大問題
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派遣スタッフの労務管理は、派遣元と派遣先が明確に役割を分担する必要があります。
特に重要なのは、
– 時間管理
– 残業命令
– ハラスメント対応
– 安全衛生管理
– 健康診断
– 休業補償
など。
ここが曖昧だと、責任の押し付け合いが起こり、最終的にはスタッフの不利益につながります。
派遣元と派遣先がしっかりと協議し、文書でルールを定め、現場に共有することがとても大切です。
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■ 8. 行政処分を防ぐためのコンプライアンス体制
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派遣法違反は、企業にとって重大なリスクです。
行政処分には、
– 指導
– 改善命令
– 事業停止
– 許可取消
などがあり、企業ブランドにも大きな影響を与えます。
これを防ぐためには、
– 内部監査
– 運用チェックリストの作成
– 派遣元責任者の教育
– 記録の適正管理
– 法改正の定期的なチェック
といった仕組み作りが欠かせません。
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■ 9. 専門家と連携するメリット
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派遣法は領域が広く、しかも改正頻度が高いため、派遣会社だけで対応しようとすると漏れが出やすいのが現実です。
社労士は、
– 労務管理
– 待遇制度
– 就業規則
– 派遣スタッフ対応
– 派遣許可
– 契約書・協定書
– 事業運営文書
に強みがあります。
専門家へ依頼することで、派遣会社のコンプライアンス体制は格段に強化されます。
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■ 10. まとめ|派遣法は“知っているだけ”では守れない
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派遣法は、派遣会社が守るべきルールが非常に多く、しかも実務の細部まで対応が求められます。
だからこそ、
「知識がある状態」ではなく
「運用できている状態」
を目指すことが大切です。
本記事が、自社運用の見直しやコンプライアンス体制強化の一助になれば幸いです。
もし、
「うちの運用、どこか抜けがあるかもしれない…」
と感じる部分があれば、ぜひ気軽にご相談ください。
派遣事業が安心して継続できるよう、社労士として全力でサポートいたします。

