無期雇用派遣の導入で失敗しないために|社労士が教える制度設計のコツ

無期雇用派遣の導入で失敗しないために|社労士が教える制度設計のコツ

はじめに:無期雇用派遣の導入、うまくいっていますか?

「無期雇用派遣(常用型派遣)」という言葉を耳にする機会が増えました。
働く人にとっては“安定した雇用”を手に入れるチャンス。
派遣会社にとっては“信頼される雇用モデル”への進化を意味します。

しかし実際に導入した企業の中には、
「待機中の給与負担が重く、採算が取れない」
「派遣先との調整が難航し、運用が止まってしまった」
「社員から“正社員とどう違うの?”と質問が絶えない」
といった声も少なくありません。

無期雇用派遣は、正しく設計すれば人材定着と企業価値の向上につながります。
しかし、制度の理解や仕組みづくりを誤ると、思わぬトラブルを招くことも。

この記事では、社会保険労務士の立場から、
「無期雇用派遣の導入で失敗しないための実践ポイント」を、
最新調査のデータと現場の事例を交えながら詳しく解説します。


第1章:無期雇用派遣とは?改めて仕組みを理解する

無期雇用派遣とは、派遣会社と“期間の定めのない雇用契約”を結び、
派遣先で働く形態のことです。

登録型派遣では派遣先の契約終了とともに雇用も終わりますが、
無期雇用派遣では派遣先での業務が終了しても、
派遣会社との雇用契約は継続されます。

つまり、派遣スタッフは派遣会社の「無期社員」となり、
安定した収入や社会保険の継続など、長期的な安心感を得られます。

一方で、派遣会社側は“雇用責任”を継続的に負うことになるため、
待機期間中の賃金や福利厚生、評価制度などを整える必要があります。


第2章:2025年の最新動向 ― 経験者は10%、満足度は77%

エン・ジャパン株式会社が2025年に実施した調査によると、
無期雇用派遣の経験者は全体の10%にとどまるものの、
そのうち77%が「働いて良かった」と回答しました。

経験者からは次のような声が寄せられています。

「契約更新の不安がなく、気持ちが安定した」
「長く同じ職場で働けるのがありがたい」
「休暇制度や福利厚生が正社員と同じになった」

一方で、「職場を選びにくい」「自由度が下がる」といったデメリットも挙げられています。

つまり、無期雇用派遣は“安定”を得られる一方で、
“柔軟性”を求める働き方とは少し方向性が異なるのです。

このバランスを理解したうえで制度を設計することが、導入成功の第一歩です。


第3章:導入時に失敗しやすい3つのポイント

無期雇用派遣制度を導入する企業の中には、
次の3つの落とし穴にはまるケースが非常に多く見られます。

①「待機期間中の賃金ルール」が不明確

派遣先が決まっていない期間に、社員を無給扱いにしてしまうケースがあります。
これは労働契約上の義務違反となり、トラブルの原因になります。

対策: 就業規則や雇用契約書に「待機期間中の賃金額・支給条件」を明確に定めましょう。

②「派遣先契約」と「雇用契約」の整合性が取れていない

派遣先での業務条件と雇用契約書の内容が食い違うと、
労使トラブルや契約不履行のリスクが発生します。

対策: 雇用契約書・派遣契約書・就業条件明示書を必ずセットで見直すこと。

③「社員説明」が不十分

「無期=正社員」と誤解している社員も多く、
待遇差や評価基準への不満が生まれやすい傾向にあります。

対策: 制度導入時に“正社員との違い”を丁寧に説明し、納得感を持ってもらうことが重要です。


第4章:社労士がすすめる制度設計の5ステップ

無期雇用派遣を導入する際は、次の5つのステップで設計を進めるのが理想です。

ステップ①:現行契約・就業規則の棚卸し

まずは自社の派遣契約・労働条件・評価制度を洗い出します。
「どの契約が無期転換の対象になるのか」「現行のルールで転換対応が可能か」を確認しましょう。

ステップ②:賃金体系と待機時の給与設計

無期社員の給与体系を、登録型派遣と区別して設計する必要があります。
特に待機期間中は、最低賃金を下回らない範囲で一定の給与を支給するのが原則です。

ステップ③:派遣先との契約ルールの見直し

長期派遣を想定した契約スキームに変更し、
「派遣先が変わる際の手続き」や「契約終了時の報告義務」を明確化します。

ステップ④:評価制度・キャリアパスの整備

無期雇用であっても、社員の成長意欲を維持するために、
昇給制度やスキル評価の仕組みを導入することが重要です。

ステップ⑤:社員・派遣先への説明と周知

制度を導入しても、現場で理解が進まなければ意味がありません。
派遣先企業にも「無期社員の派遣」であることを共有し、受け入れ態勢を整える必要があります。


第5章:待機期間中のコストをどう抑えるか

派遣会社が最も頭を悩ませるのが“待機期間中のコスト”です。
無期雇用派遣では、派遣先がない期間も給与や社保料が発生します。

このリスクを最小化するための工夫として、以下の方法が考えられます。

  1. 複数の派遣先と長期的な契約を確保する
     短期契約ばかりでは待機リスクが高まります。
  2. 教育研修期間として活用する
     待機中を「社内研修」や「スキルアップ研修」に位置づけ、
     キャリア形成支援と生産性向上を両立させる。
  3. 契約社員との混在運用を行う
     全社員を無期化せず、段階的に転換することで負担を分散できます。
  4. 派遣先の業務量データを可視化する
     派遣需要の波を分析し、配置転換をスムーズに行うことで待機期間を短縮できます。

第6章:無期転換ルールとの関係を理解する

「無期転換ルール」とは、同一企業との有期契約が通算5年を超えた場合、
労働者が無期契約への転換を申し込めるという法律上の仕組みです。

派遣社員にもこのルールは適用されるため、
派遣会社としては転換希望に応じるための社内体制を整備しておく必要があります。

例えば、

  • 無期転換申込の受付フロー
  • 無期転換後の労働条件の明示
  • 拒否できる正当理由の確認
    などを明文化しておくことで、トラブルを防ぐことができます。

第7章:現場で実際に起きたトラブル事例

事例①:「待機中は給与ゼロ」で是正勧告を受けた
→ 無期雇用である以上、就労機会がなくても賃金支払い義務は残ります。

事例②:「派遣先が見つからず社員を解雇」
→ 無期契約の社員を「派遣先がない」という理由で解雇するのは不当。
 正当な人員整理手順を踏む必要があります。

事例③:「無期転換後に待遇差トラブル」
→ 契約社員と無期社員の給与差が説明不足で訴訟になった例もあります。

これらの問題はすべて、“制度設計の段階”で防げるものばかりです。


第8章:成功する派遣会社に共通する3つの特徴

  1. 制度を「人材育成」と結びつけている
     無期雇用を単なる契約ではなく、スキルアップ・資格取得支援とセットで運用。
  2. 経営層が制度の意義を理解している
     「リスク」ではなく「信頼構築の仕組み」として捉えている。
  3. 外部専門家と連携している
     社労士・弁護士・人事コンサルなどと協働し、定期的に制度を見直している。

この3点が整っている企業ほど、離職率が低く、派遣先との取引も安定しています。


第9章:社労士が提案する「無期雇用派遣」制度設計の実務ポイント

  1. 就業規則・賃金規程の整備
     無期社員用の条項を別立てで整備する。
  2. 雇用契約書のフォーマット統一
     雇用条件明示の漏れを防止し、監督署対応を容易にする。
  3. 転換基準の設定
     「入社○年経過」「一定の評価を満たす」などの基準を明確化。
  4. 派遣先との覚書締結
     無期社員の派遣条件を事前に取り決めておく。
  5. 年次レビュー制度の導入
     制度の形骸化を防ぐため、年1回の運用見直しを実施する。

第10章:まとめ ― 安定と柔軟性のバランスを設計で決める

無期雇用派遣は、働く人にとっても、企業にとっても「安定」をもたらす制度です。
しかし、安定を維持するためには「仕組みの安定」こそが欠かせません。

労務リスク、コスト負担、契約管理、社員説明。
これらを全てカバーできる設計ができてこそ、真に成功する導入と言えます。

社会保険労務士として現場を見ていると、
制度そのものよりも、「導入プロセスの不備」が原因でつまずくケースが多いと感じます。

「どのように始めるか」よりも、「どのように運用し続けるか」。
これが、無期雇用派遣成功の最大のポイントです。


おわりに:導入を検討する派遣会社の皆さまへ

無期雇用派遣は、今後ますます増加が見込まれます。
求職者は「安定して働きたい」、企業は「柔軟に人材を確保したい」。
その両者をつなぐ新しい仕組みが、まさにこの制度です。

とはいえ、導入の難易度は高く、法的リスクも小さくありません。

制度設計・就業規則の整備・賃金ルールの策定など、
社労士と連携しながら段階的に進めていくことをおすすめします。

「うちの会社でも導入できるのか?」
「既に無期転換者が出ているが、運用に不安がある」

そんなお悩みがあれば、まずは現状のヒアリングからご相談ください。
現場の実情に合わせた“失敗しない制度設計”を、一緒に作りましょう。

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