労使協定方式の賃金テーブル作成方法を徹底解説。職務・能力・経験の客観的評価から統計データの活用、実務の注意点まで、同一労働同一賃金対応の実践的ガイド。社労士監修。
労使協定方式の賃金テーブル作成でお困りではありませんか?
「労使協定方式の賃金テーブルはどうやって作ればいいのか分からない」
「職務内容や経験をどう反映させるべきか迷っている」
「正社員の賃金表をそのまま使えるのか知りたい」
こうした疑問は、同一労働同一賃金への対応を進める企業、特に中小企業の人事担当者から非常に多く寄せられます。
従来の賃金制度を大きく見直す必要があり、実務担当者の負担も増大しているのが現状です。本記事では、労使協定方式における賃金テーブルの作成方法について、制度の考え方から実務上のポイント、よくある誤解まで、社会保険労務士の視点から分かりやすく解説します。
【結論】労使協定方式の賃金テーブルは「職務・能力・経験」を客観的に整理して作成する
労使協定方式の賃金テーブルは、単に金額を並べるものではありません。
以下の要素を客観的に評価し、それを基準賃金(統計データ)と照らし合わせて設計する必要があります。
- 職務内容:業務の種類、難易度、責任の程度
- 能力・スキル:必要な技能、資格、専門知識
- 経験年数:実務経験の長さ、習熟度
重要なのは、誰が見ても合理的だと説明できる構造になっていることです。これにより、労働者からの不満や労使トラブルを未然に防ぐことができます。
労使協定方式とは?基本をおさらい
労使協定方式の定義
労使協定方式とは、同一労働同一賃金への対応方法の一つで、有期雇用労働者やパート・派遣労働者の待遇について、正社員との比較ではなく、一定の客観的基準に基づいて賃金を決定する仕組みです。
労使協定方式の特徴
- 労使協定の締結が必要:労働者代表との協定を結び、賃金決定基準を明文化
- 客観的な基準の設定:職務内容、職務の成果、能力、経験などを基準とする
- 統計データの活用:厚生労働省の賃金構造基本統計調査など、一般労働者の賃金水準を参考にする
この方式は、特に派遣労働者の待遇決定において重要な役割を果たしますが、パートタイマーや有期契約社員の賃金設計にも活用できます。
労使協定方式の賃金テーブル作成:5つの基本ステップ
ステップ1:職務の棚卸しと分析
まず最初に行うべきは、職務の棚卸しです。
- 社内に存在する職種や業務内容を洗い出す
- それぞれの業務がどの程度の責任や難易度を伴うのかを整理
- 業務の重要度や複雑性を評価
ポイント:
職務記述書(ジョブディスクリプション)を作成すると、後の評価がスムーズになります。
ステップ2:必要なスキル・資格・経験の明確化
各職務について、以下を明確にします。
- 必須スキル:業務遂行に不可欠な技能
- 資格:業務に必要な公的資格や社内認定
- 経験年数:標準的な習熟に必要な期間
ステップ3:統計データの収集と分析
厚生労働省の賃金構造基本統計調査、職業業務安定統計などの客観的データを参考に、各職務に対応する賃金水準を設定します。
- 地域別、職種別、経験年数別のデータを確認
- 自社の事業規模や地域に合ったデータを選定
- 最新年度のデータを使用(統計は毎年更新)
注意:
古いデータや他業種のデータを使うと、合理性の説明が困難になります。
ステップ4:賃金テーブルの設計
収集したデータを基に、段階的な賃金テーブルを作成します。
- 横軸:経験年数やスキルレベル
- 縦軸:職種や職務グレード
- セル:各交点における基本給額
設計例:
| 職種 | 未経験 (0-1年) | 初級 (1-3年) | 中級 (3-5年) | 上級 (10年以上) |
| 事務職 | 1,200円/時 | 1,350円/時 | 1,500円/時 | 1,700円/時 |
| 営業職 | 1,300円/時 | 1,500円/時 | 1,700円/時 | 2,000円/時 |
ステップ5:労使協定書への記載と運用
作成した賃金テーブルを労使協定書に明記し、労働者代表と協定を締結します。
- 労働者代表者を選出し、投票結果を記録
- 協定書には基準と算定方法を具体的に記載
- 所轄の労働基準監督署への届出
- 労働者への周知徹底
よくある誤解:正社員の賃金表をそのまま使えばよい?
誤解の内容
労使協定方式について、「正社員の賃金テーブルを流用すれば足りる」と誤解されることがあります。
なぜ誤解なのか
正社員向けの賃金表は、以下を前提としている場合が多く、労使協定方式にそのまま適用するには不十分です。
- 長期雇用を前提:定年までの雇用継続を想定
- 配置転換や昇進:将来的なキャリアアップを含む
- 総合的な評価:勤務態度や潜在能力も考慮
正しいアプローチ
労使協定方式では、個々の職務や能力に着目した設計が必要であり、正社員制度とは切り分けて考える必要があります。
実務で注意すべき6つのポイント
1. 協定内容と実際の運用の一致
労使協定では立派な基準を書いていても、実際の賃金が恣意的に決められていれば、後に紛争や行政指導の原因になります。
対策:
賃金決定のプロセスを文書化し、基準に従った運用を徹底する。
2. 定期的な見直し
統計データは毎年更新されるため、それに応じて賃金水準を調整する必要があります。
推奨:
年1回、賃金テーブルの見直しを実施し、必要に応じて協定を変更する。
3. 説明責任の確保
労働者から「なぜこの賃金なのか」と問われた際に、明確に説明できる根拠を用意しておくことが重要です。
保存すべき資料:
- 統計データの出典
- 職務分析の結果
- 賃金決定の計算過程
4. 地域差への対応
賃金水準は地域によって大きく異なるため、事業所の所在地に応じた統計データ(地域指数)を使用する必要があります。
派遣先の勤務地が限定しており、1つのハローワークが管轄している地域の場合、ハローワーク毎の地域指数を用いることもできます。
5. 手当の取り扱い
基本給だけでなく、各種手当(通勤手当、役職手当など)の扱いも労使協定に明記する必要があります。
6. 評価制度との連動
賃金テーブルと人事評価制度を連動させることで、納得性の高い賃金体系を構築できます。
人事評価制度は、客観性があり属人化しないことが求められます。
社会保険労務士(社労士)による専門支援
社労士がサポートできる内容
社会保険労務士は、労使協定方式の設計から実務運用まで、以下を一貫してサポートできます。
- 職務分析の実施:自社の実態に合った職務評価
- 統計データの選定:最適なデータの選択と分析
- 賃金テーブルの設計:合理的で実務的なテーブル作成
- 労使協定書の作成:法的要件を満たした文書作成
- 労働基準監督署対応:届出や行政対応のサポート
- 定期的な見直し支援:継続的なメンテナンス
専門家に依頼するメリット
特に初めて制度対応を行う企業では、専門家の関与により、将来のリスクを大きく減らすことができます。
- 法令違反のリスク回避
- 労使トラブルの予防
- 適切な賃金水準の設定
- 時間とコストの削減
よくある質問(FAQ)
Q1. 労使協定方式は必ず導入しなければならないのですか?
A. 派遣労働者を受け入れる場合、労使協定方式または派遣先均等・均衡方式のいずれかを選択する必要があります。直接雇用のパート・有期労働者については、労使協定方式は必須ではありませんが、活用することで透明性の高い賃金制度を構築できます。
Q2. 小規模企業でも賃金テーブルは必要ですか?
A. 規模に関わらず、同一労働同一賃金の原則は適用されます。小規模企業こそ、明確な基準を設けることで、労使間の信頼関係構築と人材確保に有利に働きます。
Q3. 賃金テーブルは何年ごとに見直すべきですか?
A. 統計データが毎年更新されるため、毎年の見直しが必要です。また、事業内容や職務内容に大きな変更があった場合も、随時見直しが必要です。
Q4. 労使協定を締結する「労働者代表」とは誰ですか?
A. 全従業員の過半数を代表する者を民主的に選出します。使用者側が指名することはできません。
(例:立候補者を全労働者が承認して選出)
また、労働基準法第41条第2号に規定する管理監督者でないこととありますので、過半数代表者の選出に当たっては、管理監督者に該当する可能性のある人は避けた方がよいでしょう。https://www.mhlw.go.jp/content/000685451.pdf
Q5. 統計データはどこで入手できますか?
A. 厚生労働省のウェブサイトで「賃金構造基本統計調査」「職業業務安定統計」が公開されています。また、各都道府県の最低賃金や職業別平均賃金のデータも参考になります。
まとめ:適切な賃金テーブル作成が企業の信頼性を高める
労使協定方式の賃金テーブル作成は、同一労働同一賃金対応の中核となる重要な作業です。
押さえるべきポイント
✅ 職務・能力・経験を客観的に整理する
✅ 統計データに基づいた合理的な賃金水準を設定する
✅ 協定内容と実際の運用を一致させる
✅ 定期的な見直しを行い、最新の水準を維持する
✅ 説明責任を果たせる資料を保存する
次のステップ
制度設計や運用に不安がある場合は、早めに社会保険労務士などの専門家へ相談することをおすすめします。
適切な対応が、以下につながります。
- 企業の信頼性向上
- 安定した人材確保
- 労使トラブルの予防
- コンプライアンス強化
同一労働同一賃金は、単なる法令遵守ではなく、公平で透明性の高い職場づくりの実現につながる重要な制度です。この機会に、自社の賃金制度を見直してみてはいかがでしょうか。

