労働者派遣事業に携わるみなさんにとって、「労働者派遣契約書」は事業運営の中核を担う重要書類です。
派遣元と派遣先の役割分担を明確にし、派遣スタッフの保護を確実にしつつ、双方の取引関係を健全に維持するために欠かせません。
しかし、社労士として多くの派遣会社の実務サポートを行う中で、次のような声をよく耳にします。
「契約書のテンプレートはあるけれど、細かい点は曖昧なままになっている…」
「更新のたびに、前回の契約書をそのまま使ってしまっている…」
「現場の実態と契約がズレてきている気がする…」
派遣契約書の不備は、トラブルの発生だけでなく、行政指導につながる可能性もあります。
そして多くの場合、問題の根本は「契約書の作り方」「更新の仕方」「現場との整合性」にあります。
この記事では、派遣会社が知っておくべき「労働者派遣契約書の作り方」と「トラブルを防ぐための実務ポイント」を、できる限りわかりやすく丁寧に整理してお伝えします。
派遣事業の安定運営に直結する内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。
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## 1. 労働者派遣契約書とは?まずは基本を整理
労働者派遣契約書は、派遣元事業主と派遣先企業が締結する契約書で、派遣法に基づいて作成される必須文書です。
これは、派遣スタッフとの雇用契約書とは異なり、「企業同士の契約書」です。
記載内容には法律上のルールがあり、書き漏れはもちろん、記載が曖昧な場合にも行政指導の対象となることがあります。
契約書の役割は次の3つに整理できます。
1. 派遣元・派遣先の責任範囲の明確化
2. 派遣スタッフの保護
3. 派遣サービスの適正な取引関係の担保
これらを踏まえ、契約書は“形式的につくる書類”ではなく、“運用を支える仕組み”であるという意識が重要になります。
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## 2. 【必須】労働者派遣契約書の基本構成と必須記載事項
派遣契約書には、派遣法で定められた必須項目が多数あります。特に重要なものを挙げると次のとおりです。
● 派遣労働者が従事する業務内容
● 派遣期間の開始日・終了日
● 派遣料金の額および計算方法
● 安全衛生に関する措置
● 苦情処理の方法
● 派遣先管理台帳の作成負担
● 教育訓練・福利厚生に関する事項
● 機密保持に関する取り決め
● 派遣元責任者・派遣先責任者の選任
● 労働災害発生時の対応
一つひとつの項目には、“記載しなければならない理由”があります。
例えば、派遣料金の「額」ではなく「計算方法」を書かせているのは、後から料金トラブルが起きた際、透明性を確保するためです。
また、安全衛生や苦情処理について明記されているのは、派遣スタッフの保護のためであり、責任分担を明確化するためです。
契約書作りに慣れていない担当者ほど、項目を「埋めるだけの作業」になりがちですが、内容に意味がある以上、一つひとつの意図を理解することが実務の質を高める第一歩です。
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## 3. 業務内容の書き方|“抽象的すぎる記載”は一番危険
実務で最もトラブルが多いのが、この「業務内容」の書き方です。
よく見かけるNG記載は次のとおりです。
・「一般事務」
・「工場内作業」
・「付随業務あり」
これでは具体性が不足しており、偽装請負の指摘や、契約と実態が合わない状態を招きやすくなります。
業務内容は次のように書くと安全です。
● 具体的な作業内容
● 使用するツール・設備・システム
● 1日の主な業務割合
● 指揮命令者の範囲
● 他部署応援の有無
また、派遣スタッフが業務変更される可能性がある場合は、
「業務内容の変更時には契約の再確認を行う」
と明記しておくと、後のトラブルを回避できます。
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## 4. 派遣期間と期間制限(3年ルール)の考え方
派遣期間の明記は必須ですが、それ以上に重要なのが「同一組織単位の受入期間(3年)」の管理です。
よくある間違いは次のとおりです。
・部署名が変わったから新しい組織だと誤解する
・派遣先の人事異動で受入単位が変わったのに把握していない
・更新時に期間計算をしていない
期間制限違反は重大な行政処分の対象となるため、派遣元としては必ず確認が必要です。
安全な運用のためには、
● 組織図の定期的な確認
● 更新時の必ず期間チェック
● 派遣先に事前の組織変更の連絡を依頼
これらを仕組み化すると安心です。
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## 5. 派遣料金の書き方|金額だけでなく「計算方法」が重要
派遣法では、派遣料金の「金額」と「計算方法」の両方を記載することが求められています。
例えば、時給単価だけを書いていると不十分で、
・時間外割増の計算
・深夜・休日の扱い
・交通費の有無
・月額契約の場合の稼働時間の扱い
など、料金の根拠となる情報を整理する必要があります。
また、労使協定方式を採用している場合は、
● 協定に基づく賃金水準
● マージン率公開との整合性
も意識した契約内容にしなければなりません。
料金トラブルは派遣元・派遣先双方の信頼に直結するため、常に透明性を意識した設計が重要です。
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## 6. 安全衛生措置と教育訓練|責任の所在を“契約書で明確に”
労災対応や安全教育は、派遣元と派遣先のどちらがどの範囲を担うのか、非常に曖昧になりやすい部分です。
代表的なトラブル例は次のとおりです。
・労災が起きた際に誰が対応するのか不明で混乱
・教育訓練が十分に行われず事故につながる
・派遣先が安全情報を派遣元に共有しない
これらは契約書で明確に整理されていることで、ほとんどが防げます。
特に次の項目は明記しておくと安心です。
● 派遣先で実施する安全教育の内容
● 保護具の提供・費用負担
● 労災発生時の連絡フロー
● 健康診断の対応
● リスクアセスメント情報の提供
製造・物流など事故リスクの高い現場では必須の視点です。
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## 7. 苦情処理の仕組み|双方の対応を明確にすることでトラブル防止に
派遣スタッフからの苦情は、派遣元・派遣先どちらに寄せられる場合もあります。
この対応フローが曖昧だと、スタッフの不安や不満が大きくなり、離職やトラブルへと発展します。
契約書には次を必ず記載しましょう。
● 苦情受付窓口
● 対応の手順
● 報告ルール
● 記録方法
● どちらが主体となって処理するか
苦情対応は“素早さ”が命です。
契約書に明記されていることで、迷いなく動ける仕組みになります。
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## 8. 【実務】契約書と現場のズレを防ぐためのチェックリスト
社労士が実務で確認している「ズレ防止チェック」をご紹介します。
● 現場で業務内容が変化していないか
● 受入部署に変更はないか
● 指揮命令者が変わっていないか
● 契約書の内容が最新の法令に合っているか
● 派遣料金と労使協定の整合性
● トラブル時のフローが機能しているか
● 派遣先が安全衛生措置を適切に講じているか
これらは行政監査でも必ず確認される観点です。
半年〜1年に一度は、派遣先と一緒に棚卸しすることをおすすめします。
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## 9. 契約書作成で社労士がサポートできること
派遣法は改正が多く、現場運用との整合性を取るには専門知識が必要です。
社労士が支援できるのは次のような場面です。
● 契約書の作成・見直し
● 法改正への対応
● 更新時のチェック体制整備
● 派遣先との役割分担の調整
● 行政指導の対応
● 安全衛生や労災対応の仕組みづくり
専門家を活用することで、リスクを最小化し、運営を安定させることができます。
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## 10. まとめ|派遣契約書は「作れば終わり」ではなく“運用”が命
派遣契約書は、派遣元・派遣先・派遣スタッフすべてを守るための重要な書類です。
● 法令で求められる必須項目を確実に盛り込む
● 曖昧な表現を避け、実態に即した内容にする
● 契約更新のたびに内容を見直す
● 現場の変化に合わせて修正する
● 不安な部分があれば早めに専門家へ相談する
この積み重ねが、派遣事業の信頼性と安定性を高めます。
派遣事業は複雑ですが、ポイントを押さえれば必ず運用できる仕組みになります。
この記事が、皆さまの派遣実務において少しでもお役に立てば幸いです。

